作動トランスを用いた膨潤による紙の厚さ変化の短時間連続測定

 

東京大学農学部

江前敏晴、稲田宏之、尾鍋史彦、臼田誠人

 

1.緒言

 液体の吸収速度及び吸収量は、印刷、塗工など実際的な紙の製造上及び使用上の問題と密接に関係しており、それを正確に評価することは重要である。液体浸透のモデルとしては紙を毛細管の集合体を仮定するLucas-Washburn式が古くから用いられてきた。多数の研究者によって行われた様々な実験から液体が紙へ浸透するメカニズムとして、近似的にLucas-Washburnの式に従うことが認められている。特にオイルの吸収の場合はこの式によく合っている。水の吸収については、水が紙に接触してからしばらくは浸透が進行しない濡れ時間と呼ばれるタイムラグが存在し、一定時間の後に浸透が始まるとするメカニズムがBristow1) によって提案されて久しいが、その濡れ時間の有無あるいは毛管浸透モデルだけを吸収のメカニズムとすることを疑問視する研究者もいる。筆者ら2)の実験からも、特に弱サイズ紙の場合この式からかなり外れている場合があることが分かっている。水が短時間のうちに紙へ吸収する速度を測定する方法としては、濡れ時間の提唱者であるBristow1) の考案したブリストー装置、及びその改良型であるEklundら3)の装置が知られている。また古くはIGT のpenetration volumeter4) 、最近では光学読みとり式液体吸収試験機5)がある。間接的に測定する方法としてPan ら6)の超音波減衰率測定装置などが考案され、その実験報告が発表されている。その結果吸収メカニズムがLucas-Washburnの式に完全に従わない理由に関していくつかの理論的考察がなされているが、その一つとして膨潤の問題がある。紙は水溶液を吸収すると繊維自体の膨潤による体積の増加に加えて、繊維間に水が浸入することにより繊維間結合が切れて紙が構造的に体積増加することも膨潤の1要素であると予測される。この膨潤の程度を測定する方法として一番簡単なのは厚さ変化を測定することである。本研究では膨潤量の指標となるこの厚さ変化を短時間の領域で精確に測定することを目的としてまず作動トランスを用いた厚さ変化測定装置を試作した。吸収量の経時変化測定は既製のブリストー装置を用いて行うことにして、この両者を比較し、液体吸収メカニズムに膨潤はどう関連しているかを検討することにした。また古くから行われているコッブ法による測定8)との比較検討を行った。

 

2.膨潤を考慮した水の浸透理論

 水の浸透理論の中で膨潤の影響を最初に考慮したのはNissan7)で、繊維内部への液体の移動(拡散)も液体吸収メカニズムの中の1つであると述べている。この拡散現象が膨潤の駆動力となり、吸水量の経時変化に影響してくるのであるが、膨潤は水の浸透のどの段階で起こるのかという問題が重要である。文献によると、毛管浸透が起こった後に膨潤が起こるという説、浸透の過程で同時に起こるという説があるが、これらを検証するには水の収着量と厚さの変化を同時に測定することが本来必要である。本研究も厚さの増加が水の吸収量の増加と比較してどの程度遅れて起こるのか、あるいは同時に起こるのかを測定の結果から明らかにすることを目的としている。Bristow8) はコッブサイズ試験法を用いて板紙に対する水の吸収速度と厚さ変化量との関係を調べた。また水以外にもアルカリ水溶液、界面活性剤水溶液の吸収を調べ、膨潤について考察している。これによると、吸水量とシートの厚さ変化の関係をプロットした図から、水の収着を繊維の膨潤による水の吸収と毛管力によるポアへの浸透の2つに分けてそれぞれの量を計算する方法をとった。この考察の前提として、液体の収着量はポアに進入した液体量と繊維自体の膨潤量の和に、さらに正か負かはわからないがセルロースの膨潤がポアの体積を変化させる項を考え、それらを合わせた式を考えた。しかしその項は実測不可能であるため零と仮定した上で、吸水量とシートの厚さ変化の関係を考察した。その結論として未サイズ紙ではポアと繊維への収着が同時に起こり、サイズ紙の場合は初期の収着は繊維への拡散が主となって起こり、サイズ剤の働きでポアには水が存在せず、繊維が飽和してからポア内の流動が起こると結論した。

 また吸収機構を考える上では水の吸収量と同時に厚さの変化も測定し、しかもその短時間での変化を測定することが望ましいが、短時間での同時測定はかなり困難が伴う。このような努力もHoyland9) によって試みられており、電極を積層シート間に挟むという手法を用い、吸水量の測定の代わりに浸透深さの経時変化測定を行った。そして

 

l=√rγcosθ(t−t)/2η−K?Z ・・・(1)

l:浸透深さ r:毛管半径 γ:液体の表面張力

θ:液体と紙の接触角 t:接触時間

:濡れ時間 η:液体の粘度

?Z:時間tにおける厚さ増加 K:定数

 

(1)式で示される式によって浸透を表現し、この中のKΔZの項を実験的に決定することを試みた。まずFickの拡散方程式から導いた式に一定時間後の厚さ増加量と、厚さ増加の飽和した時点での最大厚さ増加量及び元のシートの厚さを代入することによって見かけの拡散係数を求めた。そしてこの拡散係数がKΔZに比例することを実験的に証明することにより、厚さ増加が拡散の機構によることを明らかにした。しかし、電極を挟んだ積層シートにしか適用できないため特殊な空隙構造を持ったシートでの結果になるという問題がある。

 また膨潤を膨潤圧の増加として捉え、その測定のための装置がSkowronski10) によって考案されており、その結果から膨潤とパルプ繊維の種類との関係や膨潤に伴って繊維が柔軟化することによって起こるつぶれ現象を考察している。

 

3.実験

3−1 試料

 測定サンプルには、上質紙(市販PPC用紙)、コート紙、弱サイズ紙、新聞用紙、段ボールライナーを用いた。すべて機械抄きの紙であり、弱サイズ紙はデンプンによるサイズプレスを施してある。これらサンプルの膨潤前の厚さ、坪量、ステキヒトサイズ度を表1に示す。また段ボールライナーは5層構造になっており、そのトップライナーは強サイズ、バックライナーは糊付け性をよくするためにややサイズが弱くなっている。これらの紙を以下に述べる作動トランスを用いた装置による厚さ変化測定、コッブ法を用いた厚さ及び吸液量測定、ブリストー試験のサンプルとした。

3−2 作動トランスによる厚さ変化測定装置の試作

 膨潤による紙の厚さ変化は水の吸収が開始する初期の段階から起こっている可能性があり、また弱サイズ紙の場合はごく短時間での変化であると考えられる。従って一定時間の吸収の後に厚さ計を用いて測定していたのでは、短時間での厚さ変化を測定することはできない。そこで水と紙の接触の瞬間から連続的に厚さの経時変化を測定できる装置を試作した。この厚さ変化測定装置の概略図を図1に示す。変位の検出には差動トランス(新光電子(株)製MOE−05AC−2)を用いた。先端は針状になっており、紙と接触する面は直径約1mmの円形である。紙のサンプル上に作動トランスの先端が接触するように固定してあるが、先端に荷重がかかり過ぎないように細いワイヤーで先端部分を引っ張り上げて荷重の平衡を保たせている。先端にかかる荷重は約0.5gfであった。先端が紙のサンプルを押さえる圧力は約6.2kPa であり、これはダイヤルゲージ型マイクロメータによる厚さ測定時の53.9kPa に比較してはるかに小さい圧力である。紙のサンプルは30mm×30mm以上の大きさに採取し、両面テープを用いてスライドグラス上に固定した。完全に自由な膨潤のためにはフリーの状態でサンプルを保持すべきだが、膨潤量はz方向:CD方向:MD方向では50:2:1と言われており1)、固定する影響は少ないと考えられる。さらに作動トランスの先端と紙の接触部位のごく近いところに、内径約1mmのプラスチック製チューブの先端が、3方向から中心を向くように固定してあり、一定量の水を供給できるようになっている。測定中に水の液滴が表面上に残るように1回の供給量は2mlとした。またその脇に水と紙の接触開始点を検知できるよう導電性のワイヤーがあり、水に接触するのと同時に電圧が降下し、トリガーが入るようになっている。吸水が始まり、コアになっている作動トランスの先端が持ち上がると、静電誘導の原理で内部にあるコイルの起電力が変化し変位信号となる。変位信号は増幅器により増幅され、AD変換ボードを介してパーソナルコンピュータに入力される。サンプリング間隔は弱サイズ紙では0.05秒毎に、強サイズ紙の場合は 0.5秒毎とした。1種類のサンプルについて10回測定し、接触後の各時間毎に平均し、平均的なシート厚さ変化を算出した。

 作動トランスを用いた厚さ計測のこのシステムでは吸収量の短時間での連続測定を同時に行うことはできないが、次のような簡便な方法で吸収量の時間変化を測定した。あらかじめ微量の赤インクを混ぜておいた水を0.2mlとりサンプル上の作動トランスの先端の周囲に滴下する。所定の時間が経過する直前にサンプル上の液滴の大部分をピペットで吸い取り、表面に残った水をティッシュペーパーで吸い取った。その後サンプルの重量増加を測定した。また液滴の広がった面積は、サンプルの乾燥後に液滴の接触部分が赤いスポットとなって残るのでディジタイザを用いて測定した。重量増加を面積で除して吸収量変化とし、水の比重を1と考えてml/m 単位で表した。

3−3コッブ法による吸水量及び厚さ変化測定

 TAPPI TEST METHOD T441及び JIS P8140にも規定されているこの試験方法は紙の片面から一定時間水が接触する場合に吸収する水の量を測定するものである。接触時間は120秒を基準としている。通常サイズがある程度強い紙及び板紙に対して適用されるが、本研究では弱サイズ紙もサンプルとして用い、測定した。この実験では吸水量のおおまかな時間変化を測定することを目的として行い、それと同時に厚さの変化も測定した。強サイズ紙に対しては5、10、20、30、45、60、100、150、300秒の接触時間で、弱サイズ紙に対しては2、4、6、8、10、15、20、30秒の接触時間で測定した。測定手順は最初に吸水前の紙の重量を測定してから、コッブサイズ測定器に固定し水を接触させた。所定の接触時間がになる直前に、迅速にサンプルを取り出してティッシュペーパーをあて、約200gの荷重を2秒間全面にかけた。ティッシュペーパーをあてる時間までが接触時間となるようにした。しわのない部分の厚さを紙厚計を用いて測定した後、重量を測定して吸水量を求めた。

3−4 ブリストー試験

 ブリストー法は短時間での液体の収着過程を追跡できる測定法として J.TAPPIの試験法として規格化されている。またこの測定法を用いた報告や水の収着機構について論じた論文が非常に数多く発表されている11−14)。これほどまでにこの測定法が用いられる理由は、短時間(約0.05秒〜)のうちに起こる液体吸収の現象は塗工や印刷のメカニズムと深く関わっておりその重要性が認識されているということと、その測定が行える唯一の装置であるということである。

 本実験でも短い接触時間に吸収される水の量を測定するためにこの測定法を用いた。手順はすべてJ.TAPPI試験法51-87に従った。ただし、水に加える染料としてトルイジンブルーを用い、接触時間の設定は適宜細かく行った。

4.結果と考察

4−1 作動トランスを用いたシート厚さ変化

 最初にこの装置の精度を確認しておかなければならない。予備実験から変位を示す微小信号を増幅するとかなり大きいノイズが生じることがわかったので1つはそのノイズの大きさを知っておく必要がある。また膨潤性のない繊維からなるシートは厚さの変化がないことをこの測定装置で測定できるかどうかも検討しておかなくてはならない。これらの測定にはガラスプレート及び濾過用のガラスフィルタ上に水を滴下して変位を追跡した。図2に示された結果は各々10回測定した平均である。横軸は水をプラスチックチューブから滴下した瞬間からの時間をLucas-Washburn式のプロットにならって平方根スケールで表し、縦軸は厚さの変位の増減をμm単位で示してある。この図から10回の積算でもかなりのノイズを含んでおりそのノイズの大きさは±2μm程度であることがわかった。また膨潤性のないガラスプレートあるいはガラス繊維からなるシートでは厚さ変化がないという測定結果が得られることを確認できた。

 水の浸透に伴う上質紙及びコート紙の厚さの変化を図3に示す。縦軸、横軸とも目盛りのとり方は図2と同じである。上質紙に関してはフェルトサイド、ワイヤーサイドとも水との接触後約30秒後から厚さの増加が始まる。厚さ増加の速度は接触時間の平方根にほぼ比例している。コート紙の場合は接触後約100秒後から厚さの増加が始まる。上質紙に比べて厚さ増加の開始が遅れるのは、水が膨潤の起こらない塗工層を浸透した後に原紙層に入り、原紙層だけが厚さを増したためであると考えられる。強サイズ紙の場合、表1のステキヒトサイズ度から考えるとかなり遅く厚さの増加が起きている。

 図4は弱サイズ紙の厚さ変化を同様に示したものである。横軸は浸透の速度が早いため目盛りの値は小さくとってある。フェルトサイドでは約0.5秒後から厚さが増加し始め、5秒後には飽和状態になる。またワイヤーサイドでは約1秒後から厚さが増加し始め、約10秒後に変化がなくなる。この弱サイズ紙では水との接触後かなり早く膨潤が始まることがわかる。表1のステキヒトサイズ度が約3秒であるが、この値はシートの厚さ方向に貫通する2、3のきわめて大きなポアを水が透過する時間であり、シートの全面にわたって平均的に裏面まで水が到達する時間は5、6秒であると考えられる。フェルトサイドから水が浸透する場合の厚さ変化はこの時間でほとんど終わっており、水の浸透と並行して膨潤が進行していくものと考えられる。ワイヤーサイドから浸透する場合は厚さの変化が遅れるが、ステキヒト法では液の浸透は両面から起きるために浸透の速い方が測定結果として現れるのでこの遅れは考慮に入れる必要はない。ステキヒト法の結果との比較からはサイズ紙では毛管浸透がさきに起こり、その後少し遅れて膨潤が進むと考えられ、弱サイズ紙では毛管浸透とほぼ同時に膨潤も進行するのではないかと考えられる。

 図5は段ボールライナーの作動トランス法によって測定した厚さ変化である。この段ボールライナーは5層構造からなり、そのトップライナーは強サイズ紙、バックライナーは弱サイズ紙を用いている。トップライナーは約40秒後から、またバックライナーは約30秒後から厚さが増加し始める。両者の間には厚さの増加速度にかなりの差が認められ、それぞれのサイズ強度に対応している。また、段ボールライナーは295.1μmの厚さを持つため、厚さ変化の絶対量が大きく、非常に精度のよい測定ができ、コッブ法による厚さ変化量に比べてはるかに精確になる。

 以上の測定結果が示すとおり、シートの厚さ変化が示す膨潤速度はサイズ強度に対応していることは明らかである。また最終的にその厚さ変化がレベルオフしたときの膨潤量はサイズ強度にはよらずシートの坪量や厚さにある程度関係しているが厳密な比例関係はない。Skowronski10) の膨潤圧の実験でも平衡膨潤圧は坪量ではなくパルプ繊維の種類や微細繊維量に依存するという結果が得られている。

 本研究では特に短時間での変化を追跡できる装置として変位測定装置を開発したが、本来ならさらに吸収量も同時測定できることが望ましい。しかし両方の測定を同時に行うシステムをつくることは技術的に非常に困難であるため今回は短時間での厚さの変化だけを測定し、吸収量は一定時間後の重量増加と液滴が広がった面積から計算した。短時間での吸収速度はブリストー装置を利用して両者を対応させることを試みた。短時間での吸収を追うことはできないが、同時測定の手段としては、Bristow8) と同様にコッブ法による測定も行い、作動トランス法との比較検討を行った。

4−2 作動トランス法とブリストー法の対比

 図6はコピー用上質紙のフェルトサイドにおける時間に対する水の吸収量及び厚さ変化を示す。厚さの変化量をμm単位で表すと、Bristow8) の考え方に従えば増加した厚さの分だけ水が吸収されたと考えれば、ml/m 単位で表した水の吸収量変化のうち毛管作用による吸収分を除けば厚さの増加分と一致するはずである。同時測定を行ったコッブ法では両者の変化はほぼ一致しており、これは毛管吸収の量が非常に少ないことを示すことになる。しかし、吸収及びシート膨潤のメカニズムを考えると必ずしもそうとは言い切れない。つまりシートの限られた部分に水が入り込みやすく、その部分だけが特によく膨潤しやすい場合が考えられる。しかも厚さ計による厚さ測定はかなり広い面積に対して測定されるため、その面積の中の最も厚さの増加した部分に支配されるためシート全体の平均的厚さ増加よりも大きくなると考えられる。これは不均一なネットワーク構造というシート特有の構造に起因している。また所定の吸収時間後、吸い取り紙等で表面の余分な水を吸収させてから厚さ、吸収重量を測定するという手順になるが、表面の水を拭き取ってからでもこの作業が手間取っている間、厚さはどんどん変化しており吸収機構を論じる焦点となる初期の時間の誤差が大きい。

 吸水量とシートの厚さ変化の関係をプロットした図の考察から導かれた、ポア内に水のない状態で繊維内の拡散だけで収着が進行するというBristow8) のサイズ紙での結論は収着機構としては不自然である上、図7に示すライナーボードに関して行った筆者らのコッブ法を用いた実験結果では初期の段階でシートの厚さ増加と吸収量は一致しなかった。これはサイズの利いたトップ側からの水の収着を測定したものである。やはり前に述べたようにコッブ法での厚さの測定の仕方に問題があると考えられる。

 作動トランスを使って測定した厚さの変化は、コッブ法による変化よりも小さくなっているが、コッブ法でみられる初期の急激な増加を除けばその変化の割合はほぼ同じである。厚さの変化を追跡する手段としては吸収初期の短時間の変化を追跡できる作動トランスを用いた方法は優れているといえる。コッブ法の測定では初期の変化量が大きくなっているが、前にも述べたとおりコッブ法の場合は厚さ計を用いて広い面積で測定しているため最も厚くなった部分を測っていることになり、しかもその水を多く吸収した部分は圧縮性が悪くなっているためその分も厚さの増加になる。一方作動トランスの場合は10カ所の平均的変化であるため初期の増加がないと考えられる。したがってコッブ法に見られるような初期の急激な増加が実際にあるとは考えられず、作動トランスによる測定が実際の厚さ増加に近いと考えられる。この点は収着機構を考える上で繊維の膨潤がごく初期の内に起こるかどうかの証明となる重要なポイントである。

 水の収着機構を論ずる上で重要なごく初期の時間での水の転移量は通常はブリストー装置で測定される。この方法による短時間での吸水量と、作動トランスによる短時間でのシートの厚さ変化を組み合わせて考えれば短時間での水の収着機構を解明できるのではないかと考えた。図6にはコピー用紙のワイヤーサイドについてブリストー装置で測定した吸水量の時間変化も示してある。長時間での吸水量変化は測定できないのでコッブの吸水量変化と重なる時間はごく短いが、図から判断できるように予想に反してブリストーの吸水曲線の傾きとコッブの吸水曲線の傾きはまったく一致せず、同一変化の短時間部分と長時間部分をそれぞれ表現しているものではないことがわかった。図7にもライナーボードに対するブリストー曲線を示すが、やはりその延長とコッブ法による吸水量変化曲線とは重ならないことは明確である。

 この理由を考えてみるとコッブ法及び作動トランス法での水の吸収は紙表面に接した水が自然浸透すると考えられ、特に作動トランス法では液滴を紙表面に静かに置くだけである。これに対し、ブリストー法では液体ヘッドがあり、紙が水との接触を開始したあとヘッド部分を抜け出す際にヘッドと紙の間の非常に狭い部分を通り抜けるために強いせん断力を受ける。このため水は加圧されて浸透することになる。この影響で自然浸透のコッブ法による吸水曲線よりかなりはやい吸水速度をもつブリストー曲線が描かれたと考えられる。またブリストー装置の解釈として接触時間を計算する際、ヘッドの開口部分だけでなく、紙が開口部を通過した後のヘッドの後ろ側の接触部分も紙と水の接触距離として計算すべきであるとも言われており16) 、そのように解釈すれば吸収量はもっと少なくなる。その他トレースの濃度差を生じる問題など水と紙の接触部分の解釈は単純ではなく、他の液体吸収装置と対応させる場合は注意が必要である。従って作動トランス法によるシート厚さ変化を、ブリストー法による短時間での吸水量と対応させて水の収着機構を解明しようとすることは不可能であるという結論に達した。

4−3 作動トランス法による水の浸透メカニズム

 そこできわめて短時間のうちに起こる吸収は解釈できないが、作動トランス法による厚さ変化の測定と同じ条件で水を浸透させ、吸収量を測定した。水を滴下し、所定時間後の重量増加と液滴の広がった面積から水の吸収量の時間変化を計算した。上質紙のフェルト面での吸水量変化を図8に示す。実線で示したのが作動トランス法での吸水量変化で、点線はコッブ法での吸収量変化である。初期の5〜10秒では作動トランス法の方が吸水量が少なく、それ以降はほぼ同じ変化を示した。これは短時間ではコッブ法の方が操作に手間取るため所定の時間以上に吸収が進行していたためと考えられ、実際にはこの両者の方法とも吸収速度は同じであるといえる。図9は横軸に膨潤量すなわち厚さ変化量を、縦軸に吸水量をとり、上質紙での両者の関係を示したもので、これはBristow のプロットと同じものである。上質紙での関係を図9に示す。この図では厚さ変化にコッブ法による両者の対応をみると、Bristow の解釈した通り、吸水量=膨潤量となる直線に沿って浸透が進行し、その後この直線から上方向に外れていくことからまず膨潤だけによって吸水量が増加し、その後毛管浸透によってポアにも水が満たされていくという解釈になる。しかし、作動トランス法で測定した場合は、浸透曲線は最初縦方向にのみ上昇し、やがて吸収量=膨潤量の直線に平行になっていく。つまり、最初に毛管浸透が起き、次に膨潤が始まり、最後は膨潤だけによる吸水に変わっていくという浸透機構として解釈される。これはBristow の解釈とはまったく異なるものであるが、両者の厚さ変化の測定法については前述したように作動トランス法の方が現実に近いと考えられるので、ここでは後者のメカニズムを提案する。しかし短時間での両者の関係をはっきりさせるには両者とも精密に同時測定する方法が必要である。

 

5.結論

1.作動トランスを用いたシートの厚さ変化測定器を試作し、短時間領域での高速な厚さ変化も連続的に測定することが可能となった。

2.作動トランス法による厚さ変化と吸水量変化との対応からサイズ紙では最初に毛管吸収が起こり、その後膨潤が始まることが明らかになった。コッブ法による測定では厚さの測定が正確ではない。

3.試料の液体浸透方式が異なるため作動トランスによるシートの厚さ変化測定結果はブリストー曲線とは対応しないことが明かとなり、きわめて短時間の間の吸水量と厚さ変化とを対応させるためには別の方法で吸水量を測定することが必要である。

 

 

参考文献

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2) Enomae, T., Onabe, F. and Usuda, M., "WOOD PROCESSING AND UTILIZATION" ed. by J. F. Kennedy et al. :155-160(1989)

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16) Eklund, D. E., TAPPI Coating Conference Proceedngs 1-5(1968)

Fig. 8 Comparison of water absorption ratebetween Cobb's and transducer method.

Fig. 9 Relationship beteween water absorption volume and increase in thickness for both Cobb's and transducer method.

 

 

Table 1 Physical values and sizing degree of samples tested

Kind of paper

Basis Weight,g/m2

Thickness, μm

Stokigt sizing deree, s

Woodfree paper for PPC

67.4

87.5

34.1

Weakly-sized paper

71.3

94.9

3.0

Coated paper

101.2

88.8

40.2

Linerboard

220.3

295.1